「触法少年・14才未満でも少年院へ」 −児童自立支援施設の現場から−
児童自立支援施設職員の立場より
更なる少年法厳罰化に反対する
 2000年に少年法改正が行なわれ、刑事処分が可能な年齢を16歳から14歳に引き下げた。今日、厳罰化の流れの中で、更なる少年法改正が行われようとしている。
 「凶悪な少年事件の低年齢化に対応して、警察の調査権の強化や少年院入所年齢の制限撤廃などを柱とする少年法・少年院法などの改正要綱を法制審議会に諮問した。答申を受けたうえで、2005年の通常国会へ法案を提出する予定」(9月9日毎日新聞)
 その内容は、14歳未満で刑事事件に触れる行為をした触法少年の事件について、警察に新たな証拠品の押収、家宅捜索、現場検証、鑑定嘱託などの調査権限をあたえる。故意の行為で被害者を死亡させたり、死刑・無期懲役・禁固にあたる罪を犯した少年については、関係機関に家裁送致を義務づける。現行は14歳以上としている少年院収容年齢を撤廃し、特別に必要な場合には何歳でも入所可能とする。保護観察中に保護司への訪問を怠るなど遵守事項を守らない少年に対して、保護観察所長による警告制度を設け、改善が図られない場合は施設や少年院への入所を可能とする、というものである。
 これまでは児童福祉法の理念に基づき、まだ十分に人格形成のできていない触法少年については福祉的な保護が優先されてきた。家庭裁判所送致後審判にて、児童自立支援施設・児童養護施設入所や児童福祉司指導などの保護処分が取られてきた。
 児童自立支援施設から見て今回の少年法改正は、児童福祉法の理念の、児童の心身の健全育成・発達の保障・児童を取り巻く生活の基盤の強化を根本より崩壊させる厳罰化の流れ以外何ものでもない。

児童自立支援施設の条件整備こそ今必要
 児童自立支援施設の大半は強制措置を実施しうる設備を備えてはいない。戦後その運営形体については、小舎制の暮らしを基本にして豊かな自然環境の中で規則正しい生活をとおして基本的な生活習慣を身につけ安定した人間関係をつくっていけるように育んでいる。
 東京にある2つの児童自立支援施設は、ここ数年満員の状況で社会的なニーズに答えられない状況になってきている。児童相談所や家庭裁判所より措置されてきた子どもたちは、7〜8割は虐待を受けて様々な問題を起こし、「情緒的未発達、自己形成がなされていない、自己表現が出来ない、耐える力がない、人間関係が少ない、不安や怯えがある」などの様々な問題を抱えての入所となる。入所する子どもの約3分の1は児童養護施設・里親・乳児院などの施設経験をしており、約半数の子どもたちが情緒的な問題を抱えていている。入所後、寮での生活になる。
 萩山実務学校では、寮が6ヶ(男4女2)あり1寮14人の子どもと5人の職員が暮らしている。安定した生活の中では、子どもが抱えている問題が出てくる。虐待などの影響で、非行の問題だけでなく、精神的・情緒的な問題を抱えていてその援助には今まで以上のより専門的な対応がもとめられる。専門的な心理職・児童自立支援職員が今年度より非常勤職員として配置されたが、援助の中心となる寮職員の専門性向上のための研修や専門的支援のノウハウの蓄積などは十分ではない。正規職員での心理職の配置や精神科医の配置などが必要である。
 児童集団も1寮14人の集団も情緒的問題を抱える子どもたちは、集団行動に馴染めない、グループホームなど出来るだけ小集団の中での暮らしの保障が求められる。個別の援助プログラムも自立支援計画票に基づき行なわれているが、非行や被虐待の専門的な援助プログラムにはなっていない。

子どもの自立支援・18才以降の施策の展開を
 現在までの重大触法事件でも今回の長崎・佐世保の事件等でも、児童相談所が直ちに家庭裁判所に送致し、本来児童相談所が果たさなければならない調査も児童虐待に追われ、十分にその機能を果たしていない。30年近く前私が勤めた東京の教護院では、殺人を犯した小学6年生を強制措置の設備のない中で指導援助していた。児童養護施設や児童自立支援施設でやむを得ず暮らさざるを得ない子どもたちとって、18才になったら施設から退所せざるを得ず、その後の生活は自助努力でやらねばならない。進学の費用も生活費もアパート代も自ら働いて稼いで行かなければならない。むしろ児童福祉法の改正をし、18才以降の自立支援施策の充実や創設、要保護児童の自立支援のためにせめて20歳まで十分な施策が今こそ一番必要なことである。
 触法少年の少年院での処遇等を安易に考えるのでなく、抜本的に要保護児童の自立支援・触法初年の少年院より退院してきた後の自立支援や個別援助プログラムが今こそ求められていることである。社会全体で子ども自立をどのように保障して行くのか、子どもたちが将来を見通せて夢や希望を語れる子ども施策が必要である。

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