「学校5日制」はスタートしたけれど.....
東京都子ども劇場おやこ劇場協議会
運営委員長 漆畑栄子

 4月から学校5日制と新学習指導要領がスタートしました。親の戸惑いと現場の先生方の混乱は、想像以上のようです。

 4月の半ばも過ぎるころから昼間の町に子どもたちがグループで、なにやらノート片手に歩き廻る姿を、何度か目にするようになりました。ある日、たまたま町会事務所で、集まりをしていたら、子どもたちに声をかけられました。「この建物はなんですか?」などと質問されたので、反対に子どもたちにたずねてみると、町を調べているとか。さらにようく聞いてみると、どうも総合学習の時間帯らしいのです。たぶん「自分たちの住む町をもっと知ろう!」という取り組みだったのでしょう。使ったことのない町会事務所や、遊んだことのない公園、行ったことのない銭湯など、どうもハード面からしか捉えさせようとしていない印象をもちました。つい「君たちも大変だね。」などと、子どもには理解できないような訳のわからないことばを言ってしまいたくなるほど、子どもたちはあまり楽しそうではありませんでした。子どもにとって町を知るということは、自分の毎日の暮らしと照らし合わせた時、初めて実感が湧き、そこに住む人の顔が浮かび、場所が見えてくるように思うのです。「この町が好き!」と、思えてくるような視点を取り入れて欲しいのです。たまたま数ヶ月前に、子ども劇場の活動で、同じ町を「まちのCMづくり」と称して、子どもたちと一緒に創ったばかりだったので。

 子どもたちは自由にインスタントカメラ片手に取り捲りました。いつも遅刻しそうになると通って学校に行く「抜け道」とか、いつも遊ぶ公園にある「わらべ歌が彫ってあるベンチ」(子どもたちのおすすめベンチ)、いつも通っているのに気がつかなかった路地裏にある小さな神社(これには大人もびっくり)。新しい発見もたくさんありました。仲間とわくわくドキドキしながら歩いた体験は、この町で暮らしている実感がありました。手も口も出さず、ひたすら後からついて廻った一日は、大人にとって、どれだけ我慢の連続だったことか。試練でした。

 完全学校5日制が始まり、子どもたちは今まで以上に、“ゆとり”とはほど遠い毎日を強いられています。休み時間の短縮や鑑賞教室の大幅削減などが目に付きます。さらには“3割削減”のことばだけが先行し、塾や私学へと関心を寄せる親たちに接するにつけ、心が痛みます。5日制の本来の意義は「教育的発想の地域や家庭の拡大」ではなく、子どもの権利条約31条の「休息・余暇・遊び・レクリエーション・文化的生活・芸術への参加の権利」の保障にあると思うのです。

 学校5日制では、なによりも、必要とされる基礎・基本が削減られ、その一方では、子どもの発達を無視した「つめこみ」が時間短縮の中で実施されています。このような矛盾や課題を学校任せにすることなく、地域に暮らす私たちも共に、真の“ゆとり”が、子どもたちに実現できるよう働きかけていきたいものです。年間の3分の1を地域で過ごす子どもたちにどういう場所や活動を届けられるのか中身が問われます。あふれる情報、豊富な品物、そんな生活に大人も子どもも圧倒され、何を選択したら豊かになれるのか迷います。そこには「豊かさの中に生きる難しさ」があります。“誰よりも高く、速く”ではなく、“仲間と共に生きる”喜びを感じ取れる活動づくりが求められています。“人と比べない活動づくり”と、“子どもの成長をゆっくり待てる大人の仲間づくり”に本気で取り組んだら、「自分らしく生きること」に少しは力をだせるかもしれません。そんな運動をこれからも微力ですが続けていきます。

<通信02.6月号>
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