《アピール文》
教育基本法「見直し」に強い危惧を抱き、これに反対します

 現在、中央教育審議会では、文部科学大臣による2001年11月26日の諮問「教育振興基本計画の策定について」及び「新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について」に基づいて1年を目途に求められている答申に向けて審議中です。
 しかし、この諮問の内容、中教審での議論の内容、その下敷きとなった教育改革国民会議での議論の方向性などを見るにつけ、私たちはこれに強い危惧を抱くとともに、この「見直し」に反対せざるを得ません。
 確かに子どもたちをめぐる状況は多くの「問題」をはらんでいます。しかし、それは子どもが問題なのでしょうか。いじめ、校内暴力、少年非行、不登校などから聞こえてくる子どもたちのSOS。そこから私たちが学び考え直さなければいけない大人社会のありようを棚上げにして、ことさらに、子どもたちをコントロールし管理し支配しようという教育基本法「見直し」は、問題の本質をまったく見誤っているばかりでなく、子どもの問題を口実に非常に危険な国家主義に走っていこうとするものです。
 自然を破壊し続けてきた大人が、どんな顔で「自然や環境」を言うのでしょうか。自らの歴史に責任をもたない大人が、どんな口で「伝統と固有の文化」「日本人としてのアイデンティティ−」を言うのでしょうか。嘘と欲にまみれた大人が「公共心」「規範意識」を言えるのでしょうか。在日外国人を差別し、子どもの権利条約をまったく実質化していない大人がどのような「国際社会」を目指すのでしょうか。国際舞台で戦争をできる国際社会ですか?
 教育振興基本計画の議論では、「21世紀の教育が目指すもの」として、「知の大競争時代に持続的に発展し、世界をリードし、人材大国として世界に貢献する国になるための教育改革」をうたっています。
 でも、ちょっと待って!
 一人ひとりの子どもは国家のために教育されるべきではありません。教育は一人ひとりの権利なのです。
 教育基本法前文には、「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期する」とあります。個人の尊重がまず先にあって、その結果として平和的な国家及び社会の形成がありうるとする思想です。しかし、今回の「見直し」議論では、「公」が強調され、あたかも個人はその「公」に奉仕する人格のない将棋の駒のような論調です。もっと具体的に言うなら、「個性の尊重」「多様性」「選択」という美名のもとに、人間を少数のエリートと文句も言わずそれを支える大多数の層に分け、そういう意味ではすべての人間をまさに「人材」におとしめようとするものです。このような子ども観、人間観は、どうしても容認することができません。人間をばかにするな! と声を大にして言いたい。
 また、教育基本法「見直し」の先取りとも言える『心のノート』を見ればわかるとおり、「大いなるものへの畏敬の念」「伝統と文化の尊重」「郷土や国を愛する心」など、一人ひとりの心の内面にまで土足で踏み込むような方向性は、憲法で保障する思想・良心の自由、信教の自由などの基本的人権を侵害するものとしか言いようがありません。この『心のノート』はすべての教科書に優先する特殊な教材として、まるで国定教科書のように子どもたちに手渡され、しかもその内容が戦前の修身の教科書に酷似しているという指摘は、私たちを戦慄させるに充分なものです。
 最も懸念される「見直し」として、第10条の問題があります。「教育は公権力から独立し、教育行政は教育内容には関与できず、条件整備に徹せよ」という内容が変えられて、教育内容に国家が踏み込んでくることが目論まれています。教育基本法の掲げる理想を現実的にしっかり守るための防波堤第10条。その第10条が壊されて教育が国家の支配・介入に服することはなんとしても食い止めなければなりません。
 教育基本法は、そもそも戦前の軍国主義・超国家主義の教育への反省から制定されたものです。教育勅語に代わって、憲法の主権在民、基本的人権の尊重、平和主義の理想の実現は教育の力に待つべきものとの考え方でつくられた、準憲法的な意味をもつ非常に重要な法律なのです。教育基本法がもっている大きな意味、個人の尊厳、差別のない民主的で平和な社会、そういうものをこそ、今、世界は求めているのです。そして、この教育基本法を変えることは、とりもなおさず憲法の本質を変えてしまう、つまり改憲に大きく道を開くものなのです。
 カナリヤが鳴いて教えてくれているのを無視し続ければ、いずれは空気は薄くなり、ついに命を落とすことになります。私たちがなすべきことは、いま、子どもの声に耳を傾け、そこから学び、自らを省みて歴史に学び、一人ひとりの命が、精神が、抑圧されることなく花開く道を選び取ることです。
 それとまったく逆の方向に進もうとする教育基本法「見直し」に、私たちは強く反対します。

子どもと法・21/子どもと教科書全国ネット21

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